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「報復の彼方の空遠く…」号


■CONTENTS
米同時多発テロ事件について報復の彼方へ…

■米同時多発テロ事件について(01.9.16)

獏迦瀬: たいへんな事になりましたね…。
珠緒: そうね。まずはテロで亡くなった人達に哀悼の気持ちを伝えたいわ…。
獏迦瀬: ですね。これについては非常に問題が多岐にわたるし、実際犯人もホントのとこはハッキリしてないわけで、軽々にコメントできない問題ですが、ただこれまでここで問題にしてきた「国家」や「正義」の問題が、ほんとの意味でリアルに問われる局面だということは言えるでしょうね。
珠緒: はっきり言えば「戦争」による報復といった単純な解決を許すのか、むしろ加担するのか、そうじゃなくて別な道を開くことができるのかってことだと思うけどね。テロ事件後に小泉サンはすぐに「これは民主主義社会への挑戦だ」なんて言ってたけど、小泉サンが言ってる意味とは違ってホントの意味での「民主主義」がここで問われてるんだと思うわ。
獏迦瀬: ヨソの首脳はきちんと「自由主義社会・文明」に対する戦争だと、正確な用語法を使ってましたからね。たしかに今度のテロはグローバル化する自由主義経済と、それを保障する権力としての米軍事力をねらったものとは言えても、民主主義という精神や文化を標的にしたものとは言えませんよね…。
珠緒: 民主主義の考え方そのものは、なんどかここでも触れてるけど、外部の他者を永続的に配慮するということを折りこんでいるわけで、実は自由主義や国家というモノに否定的に対立する可能性を持っているわけよね。それはロールズの哲学に表現されてるけど、そのロールズ哲学を党綱領にしてるハズの米民主党が、今回、ぜんぜん歯止め的には作用してないみたいね。
獏迦瀬: そりゃ厳しいでしょ、あれだけの事件ですからね。それにしても言ってもしょうがないことですけど、ゴアが勝ってたら…なんて思っちゃいますね、田中真紀子サンじゃないですけど。
珠緒: う〜ん、いずれにしてもまずは正確な情報を見極めるのが大事ね。ホントのところは何も確定してないわけだから…。それなのに、たしかな根拠や議論もなく感情的に走るってだけじゃなくて、不況だから渡りに舟で戦争にもってこうっていうムードさえあるでしょ。
獏迦瀬: たしかに…竹中大臣も「戦争は最大のケインズ政策(はっきり不況対策と言えや)」なんて口走ってましたからね。これからいろいろ緊迫してきそうです。

■報復の彼方へ…(01.9.22)

獏迦瀬: 坂本教授が「報復しないことこそ勇気」というコメントを出しましたね。ようやくまともなコメントがマスコミでも取り上げられてきたという感じですが…。
珠緒: まだまだ圧倒的少数よね。政治家としては小沢一郎氏が唯一、小泉サンの無原則な戦争協力を批判しているわね。意外にも…って言ったら失礼だけど。
獏迦瀬: その点、民主党の対応はガックリですね…。まあ日本の民主党はアメリカの民主党みたいにロールズ哲学を標榜しているわけでもなんでもないですから、しょうがないですけど。いずれにしても小泉サンのなし崩し的な協力方針というのは、なんととかしなくてはならないんじゃないでしょうか。
珠緒: 社民党の辻元サンに国会で「ど〜いう根拠で協力できるのか」って質問されて、「私がアメリカを支持しているからだ」ですって…。自分がアメリカを支持するなら憲法も何も無視して自衛隊動かせるっていうのかしらね。
獏迦瀬: 今日のNステに安倍晋三サンが出てましたが…。アメリカ政府の記者会見で、戦争協力を申し出ている先進国のどこからも「(ビンラディン氏が犯人という)証拠を見せろ」とは言ってきてないと明言されたんですが、それについて久米さんに突っ込まれて…。
珠緒: 見たわよ、アメリカが言ってるなら聞くまでもない、聞いちゃ失礼に当たるとか言ってたわね。あきれてモノも言えないってのはこのことだけど、みんなもこの安倍シンゾーって名前はよく覚えておいた方がいいわよ。それにしても久米さんもツッコミが足りないっていうか、遠慮しすぎよね。
獏迦瀬: 証拠がなくても報復できるなら、オウムの松本チヅオの裁判って何なんだってことにもなりますよね…。政府の首脳が今回のテロについてそういうことを言うなら、松本チヅオだけじゃなくて、彼を擁護するオウム残党に対して日本政府が一気に報復攻撃をするってことも可能だってことに、論理的にはなるでしょう。
珠緒: あははって笑ってるバアイじゃないんだけど、今回のバアイはそれ以上に、「根拠」が希薄すぎよ。っていうか、何度も言うけど根拠が希薄な内にとりあえず戦争はじめちゃって、それを既成事実にしてしまいたいって感じがものすごく濃厚にあるのよね。
獏迦瀬: アメリカ国民の九割が武力行使支持ですからね…。日本国民のデータは知りませんが、かなり近いんじゃないでしょうか。どっちにしても、あれだけの悲惨な行為をした者が、それで許されてはならないハズだという共通感覚みたいなものが、その根底にあると思うんですよ。その共通感覚自体は至極まっとうなものだと思うんですがね…。
珠緒: もちろんそうでしょ。柄谷サンが今度の報復への動きに対して「アメリカ人の多くはすでに発狂している」と言ってるみたいだけど(「黒猫の砂場」参照)、発狂したで済むなら社会批評はいらないわよね。どういう行為であっても、そこには「コトワリ」と言えるスジみたいなものがあって、でもそれにただ感情的に同調したり反抗したりするんじゃなくて、そのコトワリを解きほぐして語るのが批評の役割ってもんでしょ。
獏迦瀬: そうですね…。今度のバアイはそのまっとうさをもつ「テロが許されてはならない」という感覚が、一方的にブッシュ的報復―戦争戦略の中に回収されてしまう、そこのところこそ問題にしなくてはならないわけでしょう。
珠緒: そう…前に「グローバルな空…」で言ったのと同じように、それが空爆(今回は報復)でなければならない理由など実はない、ということよね。
獏迦瀬: 実際的にはやはり国連のような機関に「司法的」機能を発揮してもらうということしかないと思うんですが…。
珠緒: それも一つの道よね…。報復ってことで、私が思いだしたのは小浜さんが『なぜ人を殺してはいけないのか』で書いてた「死刑」の問題よ。
獏迦瀬: 小浜さんは死刑制度そのものには賛成ということでしたね…。「極刑という概念を保持している社会の方が健全だ」という…。
珠緒: それはとりあえず置いといて、小浜さんが問題にしているのは、国家が刑罰をするということの意味よ。国家が刑罰を行うということの意味は、ウラハラに「個人による報復を禁止する」コトだというのね。
獏迦瀬: それはまさに国家の「超越」的機能ってヤツですね…。それを今回のバアイで言えばアメリカのやろうとしていることは、まさに個人的な報復=私闘です。それに対して国連のようなカタチで「超越」する機能が必要なんだということになるんでしょうか…。
珠緒: でも実際問題として国連はそういうすべての国家に対して超越するようなシステムにはなってないし、今現在の各国の文化状況の差異からしたってなりえないし、なるべきと言えるかど〜かも分からないことよね…それじゃ国連が報復戦争を肯定するならそれでいいのか?ってことになるでしょ。むしろ可能性は田辺元よ。
獏迦瀬: あっ、「類的国家」の問題ですか。前に伊丹堂さんも紹介してたとこですね。「人類を合わせて一国家」にするんではなくて、ひとつの民族国家でありながら、類的普遍性に向けて開かれていく可能性という…。
珠緒: ようするに「国家」が自らの「ワタクシ性」を超越するってことよね。それは国民一人ひとりの「自覚」にかかってるというしかないけど。
獏迦瀬: ほんとはそういう「私」を超えたところでしか、テロに対してどう対処するかということ決められないんでしょうね…。今のアメリカの空気からするとそういう「私」を超えるなんてことはできない感じですけどね。
珠緒: だから他の国がそういう「私性」を超えた思考を示すことがダイジなわけでしょ。日本という国としても、ね。そういうふうに「私」を超えて「外部の他者」に対して開かれていくという思考は、そもそも民主主義っていう「文化」によって可能になるんだから、やっぱりここは日本の「民主主義」が問われてるわけよ。

●ひるますの単行本『オムレット〜心のカガクを探検する』
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